人の話を聞く人は偉大である。
今回は、鋭い人間観察力で定評の谷沢永一氏著「人間の見分け方」から、一項目を抜粋し紹介したいと思います。
人間はみんな自分のことをしやべりたい。ところが、人間というのは他人の話を聞く気がない。当然、誰も人の話を聞かない。だから、世の中はギスギスする。別に金を貸してやるわけでもないけれでも、「そうか、君はそう思っているのか」「そうか、それは難儀だな」といって話を聞いてくれるだけで、どれだけ人は幸せになることか。
できるだけ自分はしやべらず、その代わりに人の話は一生懸命に聞く。この裏表2箇条さえ守ったら、かなりの仕事ができるはずだ。ということは、人の話を聞く人は仕事の面でも頼りになる人でもある。実際、経営者に対する評価には、必ずと言っていいほど「人の話を聞いたかどうか」に関わるものが挙がってくる。「社長になった瞬間から人の話を聞かなくなった」。これは悪い評価であ る。一方、誉め言葉は「最後まで人の言うことに耳を傾けた」である。歴史上の偉人にしても、たいがい聞き上手だ。聞き上手でなくて英雄になったのは、織田信長だけだろう。あれは反面教師である。豊臣秀吉にしても、徳川家康にしても、とにかく人の話をよく聞いた。とりわけ家康はそうだった。自分が信用していない人間の話も聞いたほどだ。
一例を挙げると、家康は漢方薬の信者で、特製の薬を持ち歩いた。ところが、医者に対して、「お前の言うことは信用しない。出て行け」とは絶対に言わなかった。最後まで養った。
徳川家康ぐらいになれば、天下に名の聞こえた侍医がいたほうがいい。そういう演技も含めて、とにかく人の言うことを聞かないという態度は示さなかった。
人の話を聞く。これは人間にとっていちばん難しい。人の話を聞く人は偉大な人物であり、
人間の中の人間と言ってもいい。(完)
独り言の好きな男より